其のニ

【初めての夕食】

空港からおばさんの家に着いた私は、初めてアメリカの家に入室した。

「でかっ!」それが第一印象だった。家の大きさもさることながら、置いてある物も

けた違いにでかい。それはおばさんにもあてはまるのだが・・・・・。

私の留学生活を助けてくれる『ホストファミリー』はGOOD家。

おばさんは「BarbaraGood」という名前。年齢不祥だが、体重はおそらく想像を絶するだろう。

旦那さんに先立たれ、娘さんは結婚してしまい、大きな家に独りで住んでいる。

仕事もしているので、誰か家にいるほうが安心ということで、留学生の受け入れをはじめたそうだ。

ちなみに私で3人目の留学生だそうだ。「ここにおれより先に住んでいた日本人がいたんだ。」

思うと、ちょっと安心した。あいかわらずわけのわからない英語で質問されながら、

私は笑顔をつくるのに必死だった。するとBarbaraが、いままでと違う感じでまた何か言い出した。

私は全神経を聴覚に集中させて聴いていると

「●※*◇□☆!dinner?」

おお!!今たしかにdinnerと聴こえた!!たしか『夕食』という意味のはずだ!!

そういえば、機内食も緊張のあまりほとんど手を付けてない。お腹の減っている私は

「イ、イエス。アイ ライク ディナー。」

と今考えると情けなくなるような英語で空腹を訴えた!!

通じた!!私の発言を機にBarbaraが台所に行ったからだ。

「やった!!アメリカで初めての家庭の食事だ!!」と私はうれしくなった。

Barbaraが2階を指差しながら「■※◎◯☆◇◆!」とわけのわからないことを言ったが、

ジェスチャーから「ああ、2階へ行って待っていろということかな?」

と自分なりに解釈し、私は2階へいってみた。2階には4部屋あった。バス・トイレも二つある。

「すごぉい!」と小市民な私は一部屋づつ見まわしてみた。

一つだけ鍵がかかっていた。おそらくBarbaraの寝室だろう。

その向かいにやけにこざっぱりと整理整頓された部屋があった。「おれの部屋だぁ!」と直感した。

その時1階からBarbaraが

「◆△○◎※*□!dinner! ヒドゥマァスゥ!」

と私を呼んだ。「おっ!食事が出来たな!」ちょっと急ぎぎみで階段をかけおりた私はテーブルを見て愕然とした。

「パ、パーティーでもあるのか・・・・・!?」

そう。テーブルには驚くべき量の料理が並んでいた。

その真ん中にやけにえらそうに鶏の丸焼きが・・・・!!

私が呆然としているとBarbaraが「Have a seat.」と言った。

「席に座れということだな。」と、なんとなく分かった私は席について他の人達の到着を待った。

目の前には30センチぐらいのピザが5枚、へんな具が入ったピラフが山もり、

サラダの盛り合わせ、ラザニアのような温製料理、

デキャンタされたジュースが3種類、それに鶏の丸焼きだ。

するとBarbaraは、もう一皿を運んできたと同時に席についた。

「あれ?」

食べはじめてる!!まて!!他の人は??も、もしかして二人??

いや、そんなはずはない。あきらかに二人で食べる量じゃない!!

「□◎※*△◇○!」

私にも食べろと言っているようだ。私は見ているだけでお腹がいっぱいになった。

ピザもなんとか全種類一切れづつたべて、鶏もなんとかがんばって足だけ食べた。

ちなみに私は日本では一日一食と、かなりの小食なのだ!約20分が経過して私は確信した。

「やはり二人だけなのだ・・・!」

Barbaraはすさまじく食べていた。私が食べる手を止めるとBarbaraが

「○※*●△▲■☆?」たぶん「もういらないの?」と言っている感じだ。

「しまったぁああああああ!!!

お腹がいっぱいですって、なんて言うんだっけ?」

そう。私は自分の感情を相手に伝えるにはボキャがあまりにも貧弱なことに気が付いたと同時に

「人の家で食べ物だされて、残したらあかん!」

という親のしつけを思い出した。「なんにも言わずに残すのは失礼だ・・・・・・。」

と私は今までに体験したことのない量を胃に入れた。

やばい!まったく動けない!ちょっとでも動くとアウトだ!私は微動だに出来なくなった。

そこへBarbaraがデザートの大皿をもってきた。

もうだめだ!!!これ以上はむりだ!!私は最後の手段、手を交差させてバッテンジェスチャーをした。

Barbaraは「Oh!O.K!」と理解してくれたようだ。

その夜。初めてのアメリカの夜、私は自分の部屋のベッドに仰向けに寝ころびながら辞書をひらいた。

「うぅ・・・・・。お腹がいっぱいですってなんて言えばいいんだろう・・・。」

その辞書にはそのまんま

『I am full.』

と一言かかれていた。

私は言葉を失った。「フ、フル・・・・・・・・・。それだけでよかったのか・・・・・。」頬に涙を感じた。

其の三へつづく

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